What Broke My Father’s Heart

先週のNew York Times Magazineの記事から。

筆者の父は元大学教授、79歳のときに脳卒中に倒れ、以来、介護なしに生活できなくなる。そのような状態で鼠径ヘルニアの手術が必要となるが、術前検査の結果、(心臓)ペースメーカーを装着しない限り手術はできないと言われる。

ふだんかかりつけの主治医は、この状態でペースメーカーを入れるのは過剰医療だとして反対するのだが、外科医、循環器専門医はペースメーカーなしのヘルニア手術は頑として受け付けない。最終的に筆者の父はペースメーカーの埋め込み手術を受け、無事にヘルニアの手術を受ける。(この状態でヘルニアの手術は意味があるのかと思うかもしれないが、まあ普通、鼠径ヘルニアの手術は短時間の手術だし、筆者の父の場合は痛みもあったようだから、介護を要する状態でも、QOLの面から適応はあると思う。)しかし、ペースメーカーは頭脳や肉体の衰えを止めることはできない。介護は必要だが、ホスピスや訪問看護の保険適用を受けられるほどでもない、という患者の介護は、全面的に家族、とくに筆者の母にのしかかってくる。元気な頃から筆者の父は「過剰な医療を受けたくない」と意思表明していたが、家族がペースメーカーのスイッチを切ってほしいと申し出ても医師に受け入れられない。五年後、肺炎でとうとう筆者の父の呼吸が停止したときも、ペースメーカーは脈を刻み続けていた。

それから一年後、筆者の母は84歳にして心臓の弁置換を勧められるが、これをはっきりと拒否し、自宅の整理にとりかかる。さらに一年後、荼毘にふされた彼女の遺骨の中には、父のときのような金属の切れ端(ペースメーカーのワイヤー)は混じっていなかった。

現代医療の問題点を鋭くとらえた良い記事だと思うが、一カ所どうしてもわたしには賛同しかねる部分がある。それは、筆者の父に(主治医以外の)医療側がペースメーカーを勧めたのは、金銭的な利益が動機であるという捉え方だ。筆者はメディケア(米の高齢者向け健康保険、連邦政府が運営する)の払い戻し額を元に、外来で患者と面談するのに比較して、ペースメーカーの装着、管理がいかに医師にとって経済的に魅力的であるかを説き、医師の報酬が現在のような単価制でなくサラリー制であれば、このような悲劇は防げたかもしれないと言う。

しかし、いちおう医療側の経験を持つ者としては、この論には異議がある。

わたしは現代医療、とくにアメリカの医療の大きな問題点の一つは医療過誤訴訟だと思う。学会などが治療指針を出すと、それに沿わない治療によって患者に不利益な結果が出た場合、訴訟になると負ける公算が高い。このため好む、好まざるに関わらず、医者は過剰に検査をオーダーし、検査データの是正に必死になる。この記事の筆者の父親の場合だって、ペースメーカーなしに手術をして、実際に術中、術直後に心停止を起こしていたら、家族はどう対応しただろう?過剰医療は嫌だと言いながら、やはりそういう場合は医療側の不備を感じ、場合によってはそれに対処すべく行動を起こす(つまり、医療過誤訴訟を考慮する)のではないだろうか?

オバマの健康保険改革法案には、最初のころ、終末医療のカウンセリングを保険でカバーするための条項が入っていたが、「死の委員会(Death Panel)」だとかいうわけのわからないメディアの暴走によって、この条項は最終法案からは消えた。人間はいつかは死ぬ。このことを医療側も患者側も正面から受け入れてはじめて、医療改革がはじまる。

歩道をめぐる戦い

アメリカでは家を所有するというのは何だかバトルの連続のような気がしてきた。前に駐車スペースをめぐる攻防について書いたけれど、こんどは歩道。

ことの発端は三週間ほど前のこと。同居人が「市役所職員らしきやつが近所の歩道にあちこち印つけて回ってるで。うちも何カ所かつけられたで。」と昼間、職場に電話してきたのが始まりだった。

歩道というのは市有地であるが、自分の家の前の歩道の維持補修は、家の持ち主の責任というのがアメリカでは多い。(歩道に芝生があれば、その芝生の草刈りも家の持ち主の責任である。そのくせ、芝生に木が生えている場合、家の持ち主に木を切る権利はない。エバンストンのときに市役所公園課が「木が痛む」のなんのと言ったのは、この歩道の木のことである。)

帰ってから歩道を見てみると、うちの前は三カ所。「整備不良、修復すべし。」の印であることは明らかである。

ここはマンホールを中心に敷石にヒビが入って、全体が傾いている。(敷石2枚)

ここは隣の敷石との間に隙間ができている。(写真右上)

市役所が何か言ってくるまで放っておこうと様子を見ていたら、果たして先週、市役所から書留(Certified Mail)で整備不良を通告する手紙が来た。(しかし、他の肝心なものはただの普通郵便で送ってくるくせに、なんでこんなもんを書留で送ってくるんだ?税金の無駄づかいだ〜!)それによると、自分で修理するなら、手紙が送付された日から20日以内に完了しなければならないこと。それに当たっては、まず市役所に電話して自分(または自分の雇った修理業者)で修理する旨を報告し、敷石の枠ができた時点およびコンクリートを流した時点で市役所の認可を受けること、その期間内に連絡のないものは市に修理を委託したものと見なし、市の雇った修理業者が修理を請け負うこと、その費用は完成後に家の持ち主に請求されること、ちなみにわたしの家の場合は市の委託業者にさせた場合、見積もり額は幅5フィート、長さ20フィートで面積100平方フィート、$366であるとのことだった。(たった3枚の敷石に20フィートの見積もりを出してくるということは、印をつけられていない敷石も砕いて敷き直すということに違いない。なんという無駄!)

だいたい、上の写真の部分はマンホールが傾いているから敷石が傾いたのであって、マンホールの維持補修はいくら歩道の真ん中にあるとはいえ、市役所の責任である。その上ご丁寧なことに二週間ほど前に市役所の職員がこのマンホールのチェックに来たそうだが、なんとこのマンホールは実はどこにもつながっておらず、蓋の下は砂で埋められているのだそうである。(日中、家にいて、このようなことを全部偵察してくれる同居人がいるのはまことに有り難いことである。)偽マンホールのせいで傾いた敷石の修理なんかまっぴらごめんである。

下の写真の隙間の方であるが、わたしは自転車/徒歩通勤なので近所の歩道の状況はよく知っている。近所のこんな歩道も

(段差を定量的に表すために、わたしのカメラの充電器を並べて写真に撮った。この充電器の高さは8.5 cm。断っておくが、ここは階段ではない。平坦であるべき歩道である。)

こんな歩道も

要修理マークが付けられてないのに、なんでうちの前の敷石の隙間が修理対象なのか?

この不景気の中、どこの自治体も財政難だそうだが、オマハもかなり悪いらしい。とくにこの冬は雪が多かったので、除雪費用と雪解け後の道路の路面修理のために、道路関係は予算を大幅にオーバーしているのだろう。雪の中、路上駐車している車をどんどん駐車違反でレッカー移動して罰金を取ったのは、予算の不足分を埋める方策の一つだったと聞いている。この歩道修理の件も、市が業者を雇ってやらせるとのことだが、業者から市に何らかのキックバックがあるに違いないとにらんでいる。いったいどういう基準で要修理マークを付けているのか不透明なところも、すごく腹が立つ。

でも、問題は、この不服をどこに訴え出るかなんだよね。市民に嫌がらせをしているのが市役所である以上、市役所に訴え出ても握りつぶされるだけだろうし、うちの地区の市会議員は、冬場のレッカー移動作戦(?)の発案者だったという噂もある。これがエバンストンなら、コミュニティー新聞に投書すれば、どこからともなく「同好の士」が現れて、結構世論を動かすことも容易なのだけど、オマハというところはうちの同居人に言わせると、どうも民意が低いというのか、あんまり草の根パワーはないらしい。$366のために弁護士を雇うのは意味があるのかな?

How a Soccer Star Is Made Now

実は二週間前のNew York Times Magazineの記事だが、今日になって読んでみたら面白かったので紹介。

ワールドカップ熱の低いアメリカだが、二週間前、New York Times MagazineはWorld Cup 2022と銘打って特集を組んだ。その記事の一つがオランダの若手養成法。プロチームが七、八歳の少年をスカウトし、費用丸抱えでみっちり訓練する。いったんスカウトされても将来性がないと判断されれば容赦なく追い出し。これは選手だけでなく、コーチ陣にも適用される。練習は、試合よりもトレーニング中心。このシステムを経て育成されたごく一握りの超エリート選手は、高値の交渉権と引き換えにヨーロッパ各地のプロチームに巣立って行く。

この記事で面白いのがアメリカとの比較である。スポーツの盛んなアメリカであるが、サッカーはワールドカップ優勝候補に上がるレベルではない。しかしこれはアメリカではサッカーに人気がないということではない。18歳未満の男子サッカー人口は300万人といわれる。しかしアメリカの少年サッカーは早い時点から試合が中心で、各選手の技術を磨くよりも、チームとして試合に勝つことが主眼であるらしい。さらに他のアメリカのスポーツと同じく、上に行けば上に行くほど、遠征試合の旅費だとか、用具代だとか、家族の経済的負担が大きくなる。

わたし自身の経験から言わせてもらうと、これは何もスポーツに限ったことではない。音楽などもまた同様である。音楽専攻に進むという高校生などがピアノを弾いているのを聞いても、気の毒なくらい基礎技術が身に付いてないことがしばしばである。芸術性と技術は別だろうが、技術がなければせっかくの芸術性を表現することができない。それくらいのことは誰だって解るだろうに、positive reinforcementの名の元に、退屈な基礎練習を軽視し、「下手」を「下手」と呼ぶことを躊躇する。これまたNYTに出ていたボリショイのバレエ学校で学ぶアメリカ人生徒の記事によると、アメリカでは「体罰」や「痴漢行為」で訴えられることを恐れて、バレエ教師は生徒の体に触れることすらできないそうだ。

このあたりのことを、いちおう生まれながらのアメリカ人であるうちの同居人に感想を聞いてみたら、面白い答えが返ってきた。いわく、スポーツコーチも音楽大学も、生徒が来てくれないと収入にならないから、どれだけ下手でも授業料を払う限り受け入れるのがアメリカ式である。「このコーチに習ったら自分も世界クラスになれるかもしれない」という夢を見させて授業料を取るのが現在のビジネスモデルであるから、下手に向かって「君は向いてないからやめとけ」とは言う訳がない、と。

日本領事館オマハ出張サービス

またまた領事館のお世話になる用事(在留証明と署名証明)ができてしまったのだが、今回はタイミングよく領事館の方からオマハに出張サービスで来てくださるというので、それを利用。

会場はダウンタウンに近いモーテルの会議室。駐車場やロビーには普通に半袖短パンの太ったアメリカ人がたむろしているのに、矢印に従って会議室に入ったとたん、部屋の空気が「日本」になるのが不思議だ。

出張して来られた職員は二名。室内には長机と椅子がきちんと並べられ、いかにも整然とした風である。このサービス利用者の多くは更新パスポートの受け取りのようで、二名の職員のうち一方はほぼパスポート業務専門、もう一人がそれ以外の事務をすべて引き受けているようだった。

ただ運悪くというか、わたしが入室したときは、ちょうどこの「その他業務」が混み合っており、婚姻届けのことで相談中の人が一人、それから国籍喪失届けの人が一人、と、これはちょっと待たされるなと思いながらわたしは椅子に腰をおろした。

しかし、これが日本領事館のすごいところである。わたしが来意を告げると、先の二人の業務と平行して、数分もしないうちにわたしが記入すべき書類を準備してくれた。

日本に住んでいると、この程度のサービスは当たり前かもしれないが、アメリカではこれはまずお目にかかれない。スーパーのレジでも、客の買った品物の値段がわからなければ、値段を調べに行く係が商品ケースまで行って値段を調べて来るのだが、その間レジはストップ、値段がわかるまで行列は進まない。DMVでの免許や自動車プレートの申請から銀行窓口でのやりとりにおけるまで、アメリカでは一度に一人しか相手にしないのが原則である。(NYの紀伊国屋書店のレジは日本人が働いているから、日本式に一度に複数の客を捌いてくれた。)

しかも、ほんの二三分待っただけなのに、「お待たせいたしました」と何度も言ってくださるので、こちらが申し訳なくなってくる。DMVやイミグレ関係でどれだけ待たされても「お待たせしました」なんて言ってもらうことはないものね。(日本語の「お待たせいたしました」は単なる挨拶で、それほどの意味はないという見方もあるだろうが、それは言語論の問題になるので、また別の機会に。)

しかし、サービスの早さも日本式なら、プライバシーのなさも日本式である。会議室という会場の問題もあるのだろうが、婚姻届けの人の家庭の事情も、国籍喪失届けの人がいつ帰化したかも、全部まる聞こえである。わたしはとくに他人の話が耳に入り記憶に残るたちなので、できればこういう話は聞きたくない。聞くとどこかでしゃべってしまうかもしれないからね。

オマハは本当に生活費が安いのか?その2

アメリカは州によって所得税の税率が全然違う。カリフォルニアのように最高税率10.55%というのもあれば、アラスカやテキサスのように個人には所得税のかからない州もある。ニューヨークは最高税率が8.97%だからカリフォルニアより安いのかと思えば、ニューヨーク市は別途に税がかかる。わたしはかつてオハイオ(クリーブランド近郊)に住んでいたことがあるが、職場がクリーブランド市内、自宅は市外にあったので、所得税はクリーブランド市と自分の住む市の両方に払わされた。

さて、わたしがここに来る前に住んでいたイリノイと、現住所であるネブラスカを比べてみると、イリノイは一律3%に対してネブラスカはなんと6.84%!ネブラスカは累進課税だが、$27,000以上は6.84%のブラケットなので、相当所得が低くない限り、このブラケットに入ってしまう。(税率の数値はTax Foundationのサイトのデータによる。)

では、ネブラスカはイリノイの二倍以上州税がかかるのかと言えば、実はそう単純ではない。ネブラスカは連邦とほぼ同額の控除が認められるのに対し、イリノイは固定資産税以外ほとんど控除が効かないからである。

こういうappleとorangeを比較するには、以前にも紹介したこのサイトのツールが役に立つ。

これで自分の所得に対してネブラスカとイリノイの州税(所得税)を比較してみたら–

やっぱりネブラスカの方が高かった。カリフォルニアよりは安いけど。

結論1
ネブラスカの所得税は安くない。

Summer students 雑感

現在、二人の summer students を預かっている。一人は中国人の医学部生。8週間アメリカのラボで研修し、帰国後の選抜に通れば、MD部分を中国で、PhD部分をアメリカで修了できるという大学間の国際交流プログラムで来た。もう一人は厳密には summer student ではなく、大学院の rotation student (アメリカ人)なのだが、学部を卒業したばかりなので、知識、経験の点では summer student とあまり変わらない。

我が身を振り返って見るに、研究をはじめた当初というのはとにかく決められたことをこなすのに精一杯で、果して自分がどの程度理解しているかなんて客観的に見ることはできなかったが、今回こうやって学生を二人並べてみると、いろいろと考えさせられることがあった。

一番大きいのは何と言っても言葉の問題。中国人学生は、おそらく同世代の日本人医学生よりは英語が上手なのだろうと思うが、それでも突然アメリカのラボに放り込まれた初日から新しいコンセプトを吸収し、実験を始めるには不十分である。こちらもまず、相手がどの程度の背景知識を持っているのか、今ひとつ図り知れないということもある。書いた物を渡せば、辞書とインターネットで理解できるようだけど、口頭での説明をどれほど理解できているのか?実験の要点は紙に書きながら説明し、新しい手技は実演して見せるようにしているけど、実験の背景、なぜこの実験系を選んだか、この実験系にはどのような特徴があるかなどは、こっちの怠慢もあって詳細には説明し切れていない。

一方のアメリカ人学生の方は、言葉が通じるというのはいかに有り難いことかと改めて認識させられるほど、説明が楽である。実験器具の名前から教える必要もないし、たいていのことは実演してみせなくても言葉で説明すれば用が足りる。

もちろん研究者としての将来性、長期的展望などというのは全く別のものであるが、アメリカでの研究生活の第一歩を踏み出すときに、英語とサイエンスの両方を初歩から学ぶのは相当な努力のいることだろうと改めて感じさせられた。

(自分の経験はというと、わたしは帰国子女でもないし、英語圏で学校教育を受けたわけでもないが、英語教育に関してはかなり特殊な状況で育っているので、あまり参考にならないと思う。)

オマハは本当に生活費が安いのか?その1

Twitterにちらりと書いたが、車(去年新車で買ったPrius)の登録更新料(1年分)が$399.50という(アメリカ中西部のくせに)法外な値段を見てオマハという土地に腹を立てている。$399.50の内訳は以下の通り。

  • Motor vehicle tax $323
  • Motor vehicle fee $20
  • Registration fee $20.50
  • Wheel tax $35
  • Handling fee $1

これで見てわかるように、狭義の登録料(registration fee)は高くないのだが、追加がむやみやたらと多い。わけのわからん料金をバカスカ追加することでこれに匹敵するのは、不動産のクロージングコストか医療費くらいなものだろう。このうちmotor vehicle taxというのは居住地、車種、年式によって決まるので、いわば毎年sales taxを払い直すみたいなものである。ちなみに前の98年型Camryの場合は$45だった。新車を登録したときに既に税金を何千ドルも払ってるのに、毎年取るってひどいじゃないか!

さらに馬鹿げたことには、「オンラインお支払いもできます!」というので指定されたサイトを見てみたら、なんと手数料3%!この上さらに$12も余分に払うなんて絶対ごめんである。

オマハの自動車登録の恐ろしさはそれだけではない。料金を支払うときに一緒に自動車保険カードを同封しなくてはならないのである。(コピー不可。オリジナルのみ。)たいていの州で最低限の自動車保険が義務づけられているが、本当にちゃんと保険をかけているのはせいぜい中流以上の人だけで、おんぼろ車に乗るような生活に余裕のない人は保険料なんか支払えない。しかし、このようにカードの提出を義務づけられると、いやでも保険に入らないといけないということになる。(もちろん、登録更新スティッカーが届いたら即、保険を解約して、次の更新まで無保険という手合いが数少なくないことは想像に難くない。)

こうなるとオマハというのは見た目ほど生活費が安くないのではないだろうかと思っていろいろ検討してみることにした。

(追記)
ネブラスカ自動車登録料の計算方式のサイトが見つかったのでリンク貼っておきます。これによると登録料は$15になってるけど、今年から値上げしたのだろうか?
http://www.dctreasurer.org/MV%20Registration%20Index%208.htm