前回の最後に書いた「公聴会でのプレゼンというのはグラントをもらうときと本質的に同じ」というのをもう少し具体的に掘り下げてみる。
研究職に付きものの「書く」作業といえば、論文とグラントである。論文はそれまでの研究成果を報告するもの、グラントはこれからやりたい研究に対してお金をくれと懇願するもの、似ているようで実はその差は大きい。
どちらも正確に、読み手にわかりやすく書かねばならないという点は似ているかもしれないが、グラントの場合、カネを出し渋る相手に懇願し、説得し、とくには脅迫まがいの言動まで動員してお金を出してもらうのが目的である。(「脅迫まがい」というのは、例えば「今、ここで、この研究を行わねば、人類は永遠にエイズを根絶する機会を逃すかもしれない」みたいな大風呂敷を広げることを指す。)ときどき院生などの書くフェローシップの下書きを読まされるのだが、とくに非アメリカ人の学生はこの辺の違いをはっきりわかってないのが多いんだなあ。
グラントないしはフェローシップを書くときには、何故この研究が重要なのか、どうして今、自分がこの研究を行う必要があるのか、他人の論文、自分の論文、未公開データも総動員して、あの手この手で「ケース」を築いていく。「正確」であることはもちろん必要なのだが、いちばん大事なのは、相手に「よし、これならカネを出してやろう」と言わせることなのである。
一方、論文の場合は、極端な話、データと結論の整合性さえ満たされていればそのうちどこかの雑誌が拾ってくれる。内容の質によってピンからキリまで、ありとあらゆるレベルの雑誌が存在するからである。
こうやってみると、「非合法な」駐車スペースの設置を認可してもらおうというのは、あきらかに論文というよりはグラントタイプの仕事だとわかるだろう。
そこでわたしは、まず公聴会での議論の中心を「安全性」に据えることにした。
「エバンストンは思いの他に歩行者が襲われる事件が多い。家から500メートルほど離れたところまで行かないと駐車スポットが見つからないこともしばしばある。安全対策のため、自宅敷地内に駐車スポットを設置することを認めてほしい。」
地元の警察の週ごと、月ごとのレポートはネットで簡単に見つかるので、ここから統計をコピーする。ついでにちょうどタイミング良く、ノースウエスタン大学が近所一円に「最近、当大学の学生が夜間歩行中に襲われる事件が相次いでいます。ご近所の皆さん、注意してください。云々。」とかいう手紙を配っていたので、これも利用させていただく。
さらに、同じ通りの「非合法」駐車スポットを全部数えて回った。すでにこれだけの家に駐車スポットを許可しているのに、うちだけ認可しないのはおかしい、という「前例」とするためである。
こういったデータをパワーポイントにまとめて、わたしは公聴会に向かった。
グラント書きのコツ、私はまだわかっていないかもしれません。うーん、そうなのか。
わたしもまだまだグラント書きの修行中なのですが、となりのオフィスのPIはグラント書きが得意のようです。見せてもらうたびに「よくもぬけぬけと、こんなこと書けるなあ」と感心するやらあきれるやら。「お金ください」とお願いするときは、恥ずかしい、と思ってはいけないようです。
ビジネスで資金調達をするとき(製品などを売り込むとき)のプレゼンなども同じです。「いかに(このアイデア、製品、当社は)すばらしいか」、「御社に(コミュニティに)いかにメリットがあるか」(やらないと損ですよ!)を説く。マジで、一番おいしい投資の話などは口コミでしか伝わりませんから。
Building Inspectorと、その後、まだ続きがあり、DもCity Hallに乗り込むようです。彼はすぐにpersonal attackをしてしまうんで、書き直させてます。
グラントっていうのは、実はビジネスプロポーザルなんですよね。実はこれに関していちばん目からウロコが落ちる思いがしたのは、うちの(self-unemployedの)同居人が、企画のプロポーザルを書いているときです。むこうが募集しているわけでもないのに勝手にコマーシャルのアウトラインと予算を作成し、さらに自分のcredential(自分はこんな会社のコマーシャルを制作した、自分はこんな賞を受賞した)を付け加えて、それを手にcold callをするんです。これに比べたら、研究費のグラントのように最初から「募集」しているところに応募するのは楽なもんだと思いました。
インスペクターへの個人攻撃、気持ちはよくわかるんですが、裏ではどれだけ罵詈雑言を吐いていても、表向きはプロフェッショナルに、が原則ですよね。(半分自分への言い聞かせ。)